電熱計算
熱容量の計算
電気を利用して物を加熱する場合の電力量を計算する基本的方法を簡単にまとめ掲載いたします。
1.電気による加熱に必要な電力の計算
電熱加熱の電力を計算するとき次のように考えます。
- 一定時間内に被加熱物を所定の温度まで上げるのに必要な電力の計算
- 被加熱物を所定の温度で維持するために必要な電力の計算
- 上記のうち大きいほうの値に幾分の余裕をみこんで被加熱物に必要な電力を決定する。
上記の計算には次の3つの基本計算式を利用します。
(1)被加熱物を加熱するのに必要な電力(KW)
(2)物体の表面からの放散する熱(熱損失)の合計(KW)
(3)被加熱物の状態変化(融解または気化)に必要な電力(KW)
W:被加熱物の重量(kg)
Cp:被加熱物の比熱(kcal/kg℃)
t1:加熱すべき温度(℃)
t0:加熱前の温度(℃)
H:加熱時間(hr)
α:表面からの熱損失係数(KW/㎡)
S:放熱面の表面積(㎡)
r:被加熱物の融解熱および気化熱(Kcal/kg)
【注意】
[参考資料] 熱損失のグラフ/物質の熱的性質(簡易)
2.実際の電気による加熱に必要な電力の計算
(1)一定時間内に被加熱物を所定の温度まで上げるのに必要な電力の計算
■1-1 加熱中に形態の変化がない場合
P1 = A0+A+B/2・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「4」
A0:被加熱物の容器など被加熱物以外のものを加熱する為に必要な電力
A:被加熱物を加熱するため必要な電力
A0およびAは、いずれも計算式「1」で計算します。
■1-2 加熱中に形態の変化がある場合
P2 = A0+A1+A2+B/2+C・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「5」
A1:被加熱物を変態点(融点など)まで加熱するまでに必要な電力
A2:被加熱物を変態点から所定温度まで加熱するまでに必要な電力
(2)被加熱物を所定の温度で維持するために必要な電力の計算
■2-1 加熱中に投入される物に形態の変化がない場合
P3 = A+B・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「6」
A:単位時間(H=1)に投入される被加熱物を加熱するために必要な電力
■2-2 加熱中に投入される物に形態の変化がある場合
P4 = A1+A2+B+C・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「7」
A1:単位時間(H=1)に投入される被加熱物を変態点まで加熱する為に必要な電力
A2:単位時間(H=1)に投入される被加熱物を変態点から所定温度まで加熱する為に必要な電力
電気による加熱に必要な電力を求める場合、上記の(1)および(2)で計算した値の大きい方に約20%程度 の余裕を見こめば良いが、加熱作業には計算によっては把握できない熱損失が存在する事が大いにあるので、予備実験が可能な場合はできるだけ実験にもとづい たデーターによって必要電力の値を決めるようにしてください。
熱容量の計算(実例)
電気を利用して物を加熱する場合の電力量を計算する基本的方法を実例をあげて計算してみます。
問題
ただし、溶解炉の上部は、開放とし溶解鉛の露出表面積は、0.4㎡とします。
計算
計算に必要なデーターを参考資料(熱損失のグラフ/物質の熱的性質)より求めます
鉛の溶解点: 327 ℃
鉛の比熱(固体時): 0.031 kcal/kg℃
鉛の比熱(溶解時): 0.038 kcal/kg℃
鉛の溶解熱: 5.4 kcal/kg
溶解炉(鋼)の比熱: 0.11 kcal/kg℃
鉛表面からの熱損失: 11 KW/㎡
溶解炉外周表面からの熱損失: 0.7 KW/㎡
(1)一定時間内に被加熱物を所定の温度まで上げるのに必要な電力の計算
鉛加熱の場合は途中に形態の変化があるので (P2 = A0+A1+A2+B/2+C) 式を使います。
P2 = 100×0.11×(430-20)×1/860×1/1
+ 250×0.031×(327-20)×1/860×1/1
+ 250×0.038×(430-327)×1/860×1/1
+ 11.0×0.4+0.7×3.0×1/2
+250×5.4×1/860×1/1
= 13.97 KW
(2)被加熱物を所定の温度で維持するために必要な電力の計算
鉛加熱の場合は途中に形態の変化があるので(P4 = A1+A2+B+C)式を使います。
P4 = 150×0.031×(327-20)×1/860
+ 150×0.038×(430-327)×1/860
+(11.0×0.4+0.7×3.0) + 150×5.4×1/860
= 9.78 KW
(1)と(2)を比較すると(1)の方が大きいので、(1)に20%の余裕をみこんで必要な電気容量は
13.97×1.20 = 16.8 KW
となります。
熱損失のグラフ(1)
熱損失のグラフを掲載します、熱容量計算にご利用ください。
[1]金属表面からの熱損失グラフ
[2]水表面からの熱損失グラフ
[3]油・パラフィン表面からの熱損失グラフ
[4]溶融金属表面からの熱損失グラフ
熱損失のグラフ(2)
熱損失のグラフを掲載します、熱容量計算にご利用ください。
[5]金属表面からの熱損失グラフ(20~100℃)
[6]金属表面からの熱損失グラフ(150~550℃)
[7]保温層表面からの熱損失グラフ
[8]配管表面からの熱損失グラフ
熱的性質(簡易)
各種物質の熱的性質を簡単に掲載します。
物質名 | 比重 g/cm3 |
比熱 kcal/kg℃ |
熱伝導率 kcal/mh℃ |
融点 ℃ |
融解潜熱 kcal/kg |
---|---|---|---|---|---|
亜鉛 | 7.13 | 0.091 | 97 | 420 | 26 |
アルミニウム | 2.70 | 0.215 | 175 | 660 | 77 |
アンチモン | 6.62 | 0.049 | 16 | 630 | 38 |
銀 | 10.49 | 0.056 | 360 | 960 | – |
すず(固体) | 7.29 | 0.054 | 55 | 232 | 14 |
すず(溶融) | 6.84 | 0.064 | 28 | – | – |
鋳鉄 | 7.27 | 0.10 | 41 | 1200 | – |
炭素鋼 | 7.80 | 0.11 | 39 | – | – |
ステンレス鋼(18Cr8Ni) | 7.82 | 0.118 | 14 | 1410 | – |
銅 | 8.96 | 0.092 | 332 | 1083 | – |
砲金(10Sn2Zn) | 8.60 | 0.091 | 41 | 1000 | – |
七三黄銅(30Zn) | 8.56 | 0.092 | 85 | 1205 | – |
鉛(固体) | 11.34 | 0.031 | 30 | 327 | 5.4 |
鉛(溶融) | 10.54 | 0.038 | 15.6 | – | – |
はんだ[50Sn](固体) | 8.8-9.0 | 0.042 | 42 | 210 | – |
はんだ[50Sn](溶融) | 8.69 | 0.051 | 22 | – | – |
液体物質名 | 比重 g/cm3 |
比熱 kcal/kg℃ |
熱伝達率 kcal/mh℃ |
沸点 ℃ |
蒸発潜熱 kcal/kg |
---|---|---|---|---|---|
水 | 1.00 | 1.00 | 0.511 | 100 | 539 |
水銀 | 13.63 | 0.034 | 7.1 | 357 | 70 |
グリセリン | 1.26 | 0.57 | 0.245 | 290 | – |
スピンドル油 | 0.87 | 0.44 | 0.124 | – | – |
重油(C) | 0.984 | 0.465 | – | – | – |
ダウサム(A) | 0.81 | 0.66 | 0.074 | – | – |
トリクレン | 1.464 | 0.223 | 0.102 | 87.2 | 57.2 |
ベンゾール | 0.88 | 0.415 | 0.132 | 80 | 94 |
マローサムS | 1.031 | 0.36 | 0.102 | 390 | – |
気体名 (圧力:1kg/c㎡) |
温度 ℃ |
密度 kg/m3 |
比熱 kcal/kg℃ |
熱伝達率 kcal/mh℃ |
---|---|---|---|---|
空気 | 0 | 1.251 | 0.240 | 0.021 |
20 | 1.166 | 0.240 | 0.022 | |
100 | 0.916 | 0.242 | 0.027 | |
200 | 0.722 | 0.245 | 0.033 | |
300 | 0.596 | 0.250 | 0.039 | |
過熱蒸気 | 100 | 0.578 | 0.486 | 0.020 |
200 | 0.451 | 0.469 | 0.026 | |
300 | 0.372 | 0.477 | 0.032 | |
窒素 | 0 | 1.211 | 0.249 | 0.021 |
100 | 0.887 | 0.249 | 0.027 | |
200 | 0.699 | 0.252 | 0.033 | |
水素 | 0 | 0.087 | 3.39 | 0.144 |
炭酸ガス | 0 | 1.912 | 0.198 | 0.013 |
アンモニア | 0 | 0.746 | 0.512 | 0.019 |
亜硫酸ガス | 0 | 2.83 | 0.149 | 0.007 |